りぼんの読書ノート

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通天閣(西加奈子)

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通天閣」というタイトルで、織田作之助賞の受賞作といったら、大阪に住むことがなかったら絶対に読まなかったであろう種類の小説でした。たとえ著者が、後にサラバ!直木賞を受賞したとしても、です。

主人公は、通天閣の近くで暮らしている2人の男女。ひとりは、しょぼい町工場に勤める44歳の中年男。若いころ、7つ年上の子連れ女と結婚していたことがあったものの、離婚した後はずっと一人暮らし。不満は多いが怒りにまでは至らず、毎日をただ生きているだけの生活。

もうひとりは、場末のスナックで働いている20代の女性。芸術家志望の恋人にニューヨークへ行かれてしまい、「私たちは別れたわけではない」と自分に言い聞かせているものの、やはり最後には捨てられてしまう。この2人はかつての義理の父娘なのですが、2人の人生が最後に緩く交差するだけのラストが秀逸です。

2人が前夜に見た夢が綴られる各章の冒頭部分には少々くどさを感じましたが、工場の後輩やスナックの同僚たちの脇役がいいですね。とりわけ、声が小さくて話を聞き取れないママは、いいキャラです。チープな脇役たちの存在が、主人公たちの人生のどうしようもなさを際立たせていきます。同時に、チープな脇役たちへも注がれる暖かいまなざしが、人間賛歌とでもいうべき雰囲気を醸し出してもいるのです。

2016/6