りぼんの読書ノート

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花競べ(朝井まかて)

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後に恋歌直木賞を受賞する朝井さんのデビュー作です。

老中引退後の松平定信が登場するから、寛政の改革以降、江戸文化が花開きつつある時期ですね。江戸向島で種苗屋「なずな屋」を営む若夫婦、新次とおりんが主人公。互いに支え合い、工夫を重ねながら実直に仕事に取り組む職人夫婦が、理解者にも恵まれ、彼らを蹴落とそうとする妨害にも負けず、成功を収めていく物語。

典型的な「職人小説」ですが、名花銘木を育む種苗屋という設定が珍しいこともあって、楽しく読むことができました。彼らを支える脇役たちも、実直な大工の留吉と元ヤンキーのお袖の夫婦、太物問屋の隠居の上総屋六兵衛と変り者の孫・辰之助、不実な父親から預かった9歳のしゅん吉など、なかなか多彩。

かつて新次も修行した大店の種苗屋「霧島屋」の六代目が悪役なのですが、彼を婿に取った跡取り娘の理世が、いいキャラでした。ともに修行した新次を想いながらも、意に染まぬ結婚をすることになった理世は、夫に逆らって新次を助け、やがて家を出ることになるのです。ケイト・ウィンスレットが演じた「ヴェルサイユの宮廷庭師」のサビーヌを思い出しました。彼女を主人公に置いた小説のほうが面白かったかもしれません。

紫色の実をつける「紫式部」や、花を咲かせることだけに特化した「染井吉野」の発見譚や、しゅん吉が後の真島俊成となるエピローグなどは、「盛り過ぎ感」があるのですが、気合の入ったデビュー作とは、そういうものなのでしょう。完成度の高い作品でした。

2016/8