りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

未成年(イアン・マキューアン)

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英国高等法院の裁判官として煩雑な家庭問題に判決を下しているフィオーナでしたが、彼女自身の家庭も危機に瀕していました。60歳になる夫が浮気の公認を求めてきたのです。離婚まで踏み切るつもりはなさそうなものの、話し合いは決裂。フィオーナは別居を決意しますが、本書のおいてこの問題は背景にしかすぎません。

ロンドン市内の病院が、信仰のために輸血を拒む少年に対して、治療に必要な輸血の許可を求める緊急審理を要請してきたのです。少年の年齢は17歳と9ヶ月。イギリスでは18歳になると成年とみなされ、自分の判断で治療を拒否する権利があるのですが、それに3か月満たない未成年が、成年同等の判断力を有しているのかどうか。フィオーナは、少年との面会を求めます。

冷静で論理的ながら私生活では感情的な弱さも持つ女性判事と、頭脳明晰ながら繊細で絶対に信じられるものを求める少年の出会いは、美しいものでした。しかし、美しすぎたのです。素晴らしい判決文を書いて少年の命を救うことになるフィオーナは、少年が信仰の代わりに自分を求めてくるとまでは、想像もしていなかったのです。

残酷な結末が、他人の生命に責任を持つことの意味を問いかけてきます。いつもながら、容易には答えの出ない問いを投げかけてくる作家です。

2016/5