『ウエストウイング』の時に小学生として登場したヒロシが、本書では主役になっています。
中学三年生になったヒロシは、平均より小柄で、離婚した母親と二人暮らし。絵を描くのが好きだったのに、自分よりも上手な女子・増田が登場してから断筆状態。ソフトボール部のめちゃくちゃ明るい女子・野末のことが気になっているけれど、同じソフト部の大土居がいつもくっついていて、話しかけることができません。クラス替えがあって、前の席に座ったヤザワという男子と友達になったけれど、彼も無口な変人です。
そんなヒロシの1年間は、ハードなものになってしまいました。まずヤザワに変な噂が振りまかれ、イジメに遭ってしまいます。次いで、ほとんど知らない父親の死が伝えられます。ヒロシには実感もなかったのですが、母親が沈んでしまいました。秋になって、野末・大土居・増田・ヤザワと一緒に文化祭の展示を制作することになったのは良いのですが、女子たちは何か秘密にしていることがありそうです。
知恵を絞って、大土居姉妹を義父のDVから守った一件以来、ヒロシは野末よりも大土居のほうが気になってしまいました。しかし彼女は、母親の実家である九州で進学することになるのです。そして公立高校の後期を本命としたヒロシの受験結果も、なかなか判明しません。
さやかな正義感を貫く弱者の物語を得意とする著者ですが、これまでは自身の投影と思しき社会人の女性を描くことが多かったようです。本書は珍しく、中三男子が主人公ですが、主題の軸はぶれていません。最近になって、津村さんの小説の良さがわかってきたように思います。最初は「生気の薄い女性の物語ばっかり」と思っていたのですけれどね。
2016/5