りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ひとりっ子(グレッグ・イーガン)

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「現代ハードSFの第一人者」である著者の、日本オリジナル短篇集第3弾です。

「行動原理」
脳のリンクを組み替えて「行動原理」そのものを「有期限で」改変してしまうインプラントが、容易に入手できる時代。妻を銀行強盗に射殺された主人公は、死刑廃止の信条を一時的に停止させることを決意するのですが・・。

「真心」
脳神経に作用して「今」の精神状態を固定してしまうインプラントが「ロック」。愛が消え去ることを怖れるカップルが、ロックの使用を検討します。でも愛情を固定してしまったら、それ以上の絶頂に至ることもありえないのです。

「ルミナス」
この宇宙の数学法則とは矛盾する「不備」の存在を突き止めてしまった主人公たちは、「不備」の境界範囲を確定するか、「不備」を消滅させるかの選択を迫られます。しかし、相手の宇宙から見たら、この宇宙こそが「不備」なのです。互いの宇宙の存在を賭けた大戦争が勃発?

「決断者」
平凡な中年男性から奪ったアイパッチには、物事を選択する際の脳神経の動きを視覚化するソフトウェア「百鬼夜行」がインストールされていました。それはまるで、自分の中に「決断をしてくれる万能者」がいるような感覚だったのですが、もちろんそんなことはありませんね。

「ふたりの距離」
有機物の脳を「宝石」と呼ばれるニューロコンピュータと「チェンジ」することが普通に行われる世界。ここでは、「宝石=精神」と「クローン=肉体」とは自由に組み合わせ可能なのです。互いを完全に理解し合いたいと願う2人は、肉体を交換しあったり、共有しあったりするのですが・・。

「オラクル」
ヘレンというタイムトラベラーの助けを得て「魔法のような技術」を生み出していくアラン・チューリングに、『ナルニア』のC・S・ルイスが論争を挑みます。量子論的多元宇宙では、よりよい選択というものは無意味に思えてきますが、それを否定することはなおさら無意味です。

「ひとりっ子」
流産で子供を持てなくなってしまった科学者夫妻は、AIの子供を受け入れることを決意します。それは、量子論的多元宇宙で、他の分岐をたどって実子を持てた別の自分たちと同じ道に戻ること。一方で娘のヘレンは、AI排斥運動の中で、自我について考え始めるのです。もはや「自己」の定義すら危うく思えてきます。

2016/5