りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アリスへの決別(山本弘)

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SF的想像力で社会通念を覆し、カルト思想の妥当性を問い直す短編が7作品収録されています。かなり楽しんで書かれたのではないでしょうか。

「アリスへの決別」 少女アリスのヌード写真を撮影する青年はルイス・キャロルのようですが、どうやらちょっと違うようです。ではここは、常識の範囲内でのロリコンが容認されている世界なのでしょうか。いいえ、実際はその逆で、空想上のロリコンですら取り締まられる時代において、青年が思い描いたアリスは記憶から消去される運命だったのです。

「リトルガールふたたび」 日本が核兵器保有して面白半分に発射してしまう? 日本をこんないい加減な世界にしてしまったのはネット世論だったのです。それを避けるには独裁による強権発動しかないのでしょうか。

「七歩跳んだ男」 月を訪れた小説家が宇宙服も着ずに基地外に出て死亡。これは、月には重力も空気もあるというトンデモ科学を信奉した結果の自殺的行為だったのでしょうか。

「地獄はここに」 成功したインチキ霊能力者が適当なことを言ったために、サイコパス・キラーを野放しのまま放置することになってしまいます。前言を翻すことは能力がないことを認めることだったから・・。

「地球から来た男」 宇宙船の密航者は「Y染色体不可侵の原則」を第一に考える国のプリンスでした。彼が密航した目的は何だったのでしょう。

「オルダーセンの世界」 時間を逆行する先進波が高まった結果、量子論の世界が現実化して生まれたのが「亜夢界」です。ここでは世界観を共有した者たちの意識で世界の形が保たれているのです。深夢ダイバーを名乗る女性・シーフロストが警察国家に潜入して、治安維持隊員に自由の概念を教えようとしするのですが・・。

「夢幻潜航艇」 前作の続編です。「亜夢界」を泳ぎ回る「魚」と呼ばれる存在は、近づいた者の意識を乱して自己喪失させると恐れられています。大量の犠牲者を出した「魚」にシーフロストが近づくのですが、「魚」とは人間とはかけ離れた存在の意識のようです。しかし、シーフロストがコミックの登場人物だったとは、「量子論世界」は何でもありなんですね。

2012/12