りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

過ぐる川、烟る橋(鷺沢萠)

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1970年代に九州から単身上京してきた2人の青年。人並みはずれた体格に恵まれながら気が弱いために職場で苛められていた弟分の篤志は先輩の勧めでプロレスラーへの道を歩み、彼を何かと庇っていた兄貴分の勇は職場が倒産してから身を持ち崩していってしまいます。

それから数十年後、プロレスの世界で大成した後に引退した篤志は、勇との再会を恐れていました。何度も申し訳なさそうにしながら金を借りに来ていた勇の、一層落ちぶれた姿を見たくなかったことに加えて、2人の間にはユキという女性を巡る因縁があったからなのです。

夜逃げ同然に東京を離れた勇から預けられ、一時は互いに愛し合ったはずのユキは、結局、勇のところへと戻っていったのです。篤志が本当に見たくなかったのは、苦労を重ねて年をとったユキの姿のほうだったのかもしれません。

どこかで読んだことがありそうな物語であり、青春時代の思い出をたどるだけの感傷でしかないとも思えます。ただ、最初から最後まで男の視点から書かれた本書が、女性作家によって書かれた作品だということは、特筆しておいても良いでしょう。

鷺沢さんの作品は、君はこの国を好きか私の話のような自伝的な作品のほうが、ずっと良く書けていると思うのですが・・。

2012/12