りぼんの読書ノート

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テスタメントシュピーゲル 2(冲方丁)

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民族主義の残渣と、国連組織経由で持ち込まれた世界中のテロが交差する近未来都市ウィーン。超少子高齢化を背景とした児童労働の許可と、重度身体障害者に機械化四肢を与える福祉政策の融合によって生み落とされ、治安維持のために戦う6人の「特甲少女たち」。

そんな独特の世界観を共有するオイレンシュピーゲル・シリーズスプライトシュピーゲル・シリーズが合流した、新シリーズの第2巻です。

「黒犬・涼月、赤犬・陽炎、白犬・夕霧」というオイレンの視点から綴られた第1巻の事件を、「紫火・鳳、青火・乙、黄火・雛」というスプライトの視点から再述することによって、より深い層に隠されている真相に迫っていくという手法は、以前のシリーズの偶数巻と同様。些細な囚人護送バス襲撃事件が、ヴァチカン枢機卿の爆殺、イギリス王子の射殺を経て国際紛争へと拡大していく過程で、特甲少女の開発に関わる秘密が明らかにされていきます。

なぜ彼女たちは、虚無に引き込まれようとなるのか。彼女たちを守る存在とは何なのか。「最初の出撃」の際に起きた事件とは何だったのか。そこで死亡したとされる2人の特甲少女はどうなったのか。3人の開発者たちは本当に死亡しているのか。そして、「プリンチップ」、「キャラバン」、「ローデシア」、「特甲猟兵」などの「悪の複合体」は何を目的としているのか。

その過程で描かれるのは、辛い運命に対して必死に抵抗する少女たち。モリサンに遺されたカタナから学んだ武道の精神で、平常心を保とうとする乙。自分の過去の犯罪を思い出し、「太公望の脳」を盗み出したまま仲間たちとの接触を断ってしまった雛。そして、ついに虚無に飲み込まれてしまった鳳。さらに接続官の少年たちまでもが深手を負う展開。

絶望の中から復活した涼月が、2トンのダイヤを燃やしながらウィーンの地下を疾走する機関車に乗って反撃を開始するところで、第2巻は終了。プロローグにあった、涼月と鳳の対峙シーンは、もう少し先の出来事ですね。楽しみに待ちましょう。「報いられざることひとつとしてなからんことを。」

2016/1