りぼんの読書ノート

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馬琴の嫁(群よう子)

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滝沢馬琴の一人息子・宗伯に嫁いだ路(みち)のことは、山田風太郎さんの八犬伝で知りました。そこでは、視力を失った馬琴と、「八犬伝」を口述筆記した路の協業が、「虚実冥合」を化現した「超人的聖戦」とまで讃えられています。カナ文字しか知らなかった路が、お経のような漢文書き下し文を筆記するには、一文字ずつ漢字を教えてもらわねばならなかったのですから。

馬琴の偏屈で頑固な様子は、さまざまな作品で描かれています。最近では、高田郁さんのみをつくし料理帖にも、馬琴をモデルにした人物が登場していました。しかし、仕事と家庭の両面から、晩年の馬琴を支えたお路をヒロインとして描いた作品は多くないはず。

群よう子さんの初めての時代小説は、そんなお路の奮戦記です。気難しい舅と、癇癪持ちの姑と同居するだけでも大変なのに、肝心の夫・宗伯は病弱で頼りになりません。やがて生まれた長男も病弱で、長女は親戚の養女に出されてしまいます。好きな音楽も禁止され、ノリの軽い実家の両親にも悩まされながら、家事に子育て、病人の介護に苦労する日々。こんな厳しい毎日を乗り切るには、楽天的な芯の強さが必要ですね。

八犬伝」を口述筆記した苦労は、むしろ抑え気味に描かれています。難しい家庭で不可欠の存在として認められるまでに力点を置いたのは、著者の趣向なのでしょう。デビュー当時の『無印シリーズ』以来、この人の作風はブレていません。

2015/12