りぼんの読書ノート

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食う寝る坐る永平寺修行記(野々村馨)

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永平寺」というと、しんしんと降り積もる雪の中で、除夜の鐘がおごそかに響く「行く年くる年」のイメージが強い寺院。開祖道元というと、ウィットゲンシュタインサルトルらの西洋哲学と比較されることも多い、中世日本有数の哲学的宗教家。

そこで学ぶ修行僧たちは、深く静かに自分自身を見つめ直す日々をすごす・・という勝手な想像は、スリーピング・ブッダ(早見和真)という小説を読んだ時点で崩れ去っています。その後、今年の夏に実際に永平寺を訪れたので、今度はノンフィクションの「修行記」を読んでみました。

30歳の時に突然出家し、永平寺での1年間の修行生活をすごした著者による体験記は、かなりリアルです。著者を待っていたのは、古参僧侶からいきなり罵倒され、殴る蹴るの体罰を受け、口ごたえも許されず、罰則を恐れながら作法通りの生活を送る日々。脚気を患う心配をするほどの粗食と、寒さと暗さと孤独に耐える日常。まるで旧日本軍のような厳しさです。

それは「覚悟」のほどを試されているのでしょうか。これまで築き上げてきた「自我」や「価値観」を剥ぎ取って、「執着から逃れる」ために必要なことなのでしょうか。

しかしながら、季節が巡るに連れて、当初の指導の厳しさは薄れていきます。それ以降は「自らを律する不断の修行」が求められていくのであり、今度は後輩を厳しく指導する立場にもなっていかなければなりません。そして1年が経つころ、山に残る者と去る者に道が分かれて行くのです。

著者は、永平寺での修行を肯定的に顧みています。わずか1年間の修行体験記ですので、語りつくされていないことも多いでしょうし、個人的な体験が普遍化されている部分もあろうかと思います。それでも、普段はうかがい知れない禅寺の修行記として、興味深い内容でした。

2015/9