後に啓蒙君主と呼ばれることになるフリードリヒは、皇太子時代からヴォルテールの大ファンだったようで、彼をプロイセン宮廷に招こうと、ほとんどラブレターのような手紙を送り続けます。一方のヴォルテールも、思想の実践を託せる存在としてフリードリヒを高く評価していたのですが、宮廷訪問はなかなか実現しませんでした。
ヴォルテールと愛人関係にあった、シャトレ侯爵夫人エミリーが引き留めていたのですが、この女性がなかなか魅力的なのです。貴族の娘ながら物理や数学が好きでライプニッツやニュートンを愛読し、ニュートンの『プリンキピア』の翻訳を手がけるという才媛。フリードリヒの人物像も鋭く見抜く一方で、王妃とのいかさまカードゲームで借金を作るという、お間抜けな側面もあるんですね。
ヴォルテールのプロイセン訪問は、エミリーの死後に実現するのですが、やはり「遠距離恋愛」のままのほうが良かったようです。後にオーストリアとの戦争にのめり込むフリードリヒの残虐性と、市民階級出身のヴォルテールの守銭奴ぶりが、互いに見えてきてしまったのです。やがて2人は訣別するのですが、その間の心の動きを、史実と書簡を並べるだけで綴ってしまうというのは、著者の力量なのでしょう。
2015/9