りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

夜また夜の深い夜(桐野夏生)

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ナポリのスラムに住む18歳の舞子が、一度も会ったことのない七海という同年代の女性に向けて発信する手紙。舞子はそこで、母によって歪められた数奇な半生を語っていきます。

なぜか顔の整形を繰り返す母親は、娘に対して自分の本当の名前を明かさず、父親の名前もルーツも教えていません。舞子は国籍もIDもないまま、学校にも行けず、幼い頃から母に連れられてアジアやヨーロッパを転々としてきたのです。最近では、自分の若いころに似てきたと言って、舞子に整形を強制しようとする始末。いったい母は、何から逃れ、何を隠しているのでしょうか。

ナポリで漫画喫茶を開店した日本人の青年に出会ったことが、舞子の運命を変えていきます。外の世界に関心を持った舞子は家を飛び出し、ナポリの地下で出会った2人の少女たちと、奇妙な共同生活を始めます。リベリアの内戦を逃れてきたエリスと、モルドバの施設を追い出されたアナと始めた最底辺の生活は、続けられるのでしょうか。その先に展望はあるのでしょうか。

優しいおとなと似た雰囲気もありますが、途中から、全く先が読めないサバイバル小説になってしまいます。「夜また夜の深い夜」の底にある、不気味な世界を垣間見せたところで、ようやく、小説は収束に向かうのですが、この結末は綺麗すぎるかもしれません。現実の世界は、無意味に生命も尊厳も奪われていく、無数の少女たちの悲鳴に満ちているのでしょうから。

2015/9