りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

マリアが語り遺したこと(コルム・トビーン)

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息子はなぜ十字架にかけられたのか。息子を救うことはできなかったのか。息子を亡くした母が繰り返し自問することは、世の東西を問わず等しいようです。たとえその女性が、「聖母」と呼ばれる存在であっても。

小アジアのエフェソスに逃れて静謐な日々をおくっている老女マリアのもとを訪ねてくる2人の男とは、ヨハネパウロなのでしょうか。マリアから数々の話を聞き出して「聖人の伝説」を書き上げようとしているらしいのですが、彼らが望むような話をすることはできません。

母から見た息子の行動は不可解で、息子の周りには危なっかしい者たちが集い、案の定、息子は命を落としてしまったのです。ラザロの復活も、カナの婚礼も、母から見たら「奇跡」などではなく、何かしら危ういこと。ゴルゴタの丘で願ったのは、これが間違いであって欲しいということばかり。生身の母親として描かれたマリアの思いが、切々と綴られます。

もともと一人芝居の台本として書かれた作品とのことで、130ページの短い小説です。発想は素晴らしいながら、内容だって帯に書かれた言葉で尽くされています。それでも本書は読む価値があるのです。そういえばブルックリンも、故郷アイルランドと新天地アメリカの間で引き裂かれた少女の思いを静かに綴っただけでありながら、とても感動的な作品でした。

2015/4