りぼんの読書ノート

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有頂天家族 二代目の帰朝(森見登美彦)

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「面白きことは良きことなり」という偉大な父の教えを胸に生きている、狸界の名門下鴨家の三男・矢三郎が活躍する有頂天家族の続編がついに登場。京の町を舞台にして、狸と天狗と胡散臭い人間たちが三つ巴で絡み合う物語は、三部作になる予定とのこと。

下鴨家の4兄弟とライバル夷川家の争いはどうなるのか。矢三郎と元許嫁の夷川家の末娘・海星との関係は改善されるのか。忘年会で狸鍋を食らう金曜会の寿老人や、力を失って妄執に生きる大天狗の赤玉先生や、半天狗の冷酷な美女・弁天は、どうしているのか・・などの、前作からの興味に加えて、今回はあらたな人物が登場してきます。

ひとりはタイトルにもなっている「赤玉先生の二代目」。大正時代に京都南座楼上での赤玉先生との師弟対決に敗れ、英国に出奔していた二代目が、英国紳士然となって帰朝してきたのです。老醜をさらしている赤玉先生との再戦はあるのか。また、二代目に激しくライバル心を燃やす弁天との関係は、どうなってしまうのでしょう。

もうひとりは、金曜会への入会を望んでいる天満屋という胡散臭い男。地獄図の中に落とされてラーメン屋を開いていたという幻術使いは、寿老人の手先となって、年末の狸汁のために狸たちをつけねらいます。彼と狸たちの化かし合いは、楽しい場面ですね。

今回も、親の仇とか、跡継ぎとか、頭領選挙とか、駆け落ちとか、決闘とか、大時代的な要素を多分に含む物語が、破天荒に進行していきます。逆説的ですが、こんなことをやっているのが狸や天狗だということが、かえってリアルさを増しているようです。生々しい感情の発露は、現代の人間にはそぐわないように思えますので。

大混沌の末の大団円には、前作に続いてホロリとさせられてしまいます。狸なのに(笑)。海星が弥三郎の前に姿を現さなかったのには、健気な理由があったのですね。第3部もあるとのことで、期待しています。

2015/8