りぼんの読書ノート

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猫背の虎 動乱始末(真保裕一)

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乱歩賞でデビューし、外交官・黒田康作シリーズ」でブレークした著者ですが、最近では時代小説も書いていたのですね。すでに3作めだそうです。

安政の大地震」によって被災した江戸を舞台に活躍する、南町奉行所の若き同心・大田虎之助が主人公。亡父のあとを継いだばかりの虎之助は、地震を契機に臨時の市中見廻役を命じられます。彼が取り組んだ事件は、藤籠に入った男の死体、流言飛語を流す盗賊団、人違いの刺傷事件、赤ん坊誘拐事件、幕府批判の瓦版、吉原からの逃亡遊女・・。いずれも、地震の後の大混乱を背景にして起きた事件です。

しかも、「仏の大龍」と呼ばれて誠実な同心であった亡父の横領疑惑と、虎之助の絡む恋の行方が、全体を貫いて絡み合っているのですから、凝っています。ラストの虹は美しかったけれど、これで終わりではないのでしょう。続編もありそうです。

もうひとつ。全編を貫いているのは、時の為政者の無能無策ぶりへの批判です。地震のみならず、黒船来航への対応という前代未聞の国難の最中ながら、次の将軍を巡る一橋派と紀州派の対立に追われて、有効な手を打てずにいたというのですから。震災後の現代日本に重なる風景です。

ところで、父を喪った虎之助の家族は、口うるさい母親と、揃って出戻ってきた2人の姉。いつも女3人から責められて「猫背になった」というのは気の毒ですが、著者によるとここは「ほっとできる、微笑ましいシーン」だそうです。そういえば、「必殺シリーズ」でも「婿どの・・」の場面が息抜きになっていました。

2014/4