３人の女性を主人公として、「小説を書くこと」をめぐる小説です。
「ジュニア小説の女王」と呼ばれるものの、近年は何も書いていない森和木ホリー。ホリーにスカウトされて優秀な秘書となり、２０数年間勤めている宇城圭子。新人賞でデビューしたものの伸び悩み、ホリーの内弟子となる國崎真実。
ホリー先生との初対面の際にいきなり[黒猫のチャーチル]と呼ばれた真実は、とまどいます。人気シリーズに登場する元人間で両性具有の黒猫は、主人公たちを引っ張りまわして物語を進めていく存在なのですから。では新しい黒猫を得たホリーは、再び物語を書けるようになるのでしょうか。でも、そう簡単ではありません。ホリーは自らの過去を振り返り始め、ホリーのエッセイを代筆してきた宇城は自信を失い、真実はなぜかコロッケを揚げ始めます。
でもそれは、やはり「物語の始まり」だったのですね。「書くことと生きることは一緒」であり、物語を生きることと、物語を書くことの間には、境界などないのですから。そしてやはり、そんな生活の中で、３人とも誰にも読ませるつもりのない物語を紡ぎ出していたのです。もともと彼女たちは、「書かなくても（書くことから）自由になれない」人種なのですし。
妙にスピリチュアルな箇所は不要だったと思いますし、読者を引かせてしまうタイトルもどうかとは思いますが、楽しくて軽やかで深みも感じる作品でした。何より、真実が作るコロッケが美味しそうなのが良いのです。
2015/4
