りぼんの読書ノート

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怪物はささやく(シヴォーン・ダウド/パトリック・ネス)

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早世したボグ・チャイルドの著者による原案を、カーネギー賞作家が仕上げた作品は、母の死に直面した少年の心の底を残酷なまでに抉り出してくれています。ホラーじみた展開が、残酷な悲しみに、そして癒やしに・・。

ある夜、癌にかかった母親のことで頭がいっぱいになっている少年コナーのもとに庭のイチイの木が怪物となって現れます。3つの物語を聞かせるから、4つめの物語として真実の物語を語れと少年に迫る怪物。

怪物の語る物語は、寓話的ながら矛盾に満ちたものでした。女王は善良で邪悪な魔女であり、王子は殺人者で救世主であった・・。薬剤師は強欲で正しい考えの持ち主で、司祭は身勝手で思いやりある人物だった・・。誰からも見えなかった男の孤独は、見えるようになってかえって深まった・・。

そして怪物は少年に迫るのです。野に放った途端に暴れまわる物語というものが油断ならない生き物であるように、人間は複雑な生き物であり、都合のよい嘘と痛ましい真実の両方を信じようとして、さらにそんな自分に罰を与えようとするもの。だから、おまえの真実を話せと。はたして少年の真実の物語とは・・。

真の癒やしとは、自分の心の奥底まで踏み込まないと得られないものなのであり、その過程は誰にとっても辛い体験になるものなのです。そして読者は、自分が心の底に葬っていた欺瞞に気づかされることになるのです。挿絵も素晴らしいヤングアダルト向けの小説ですが、極めて深い内容の作品です。

2012/3