りぼんの読書ノート

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古城ホテル(ジェニファー・イーガン)

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大恐慌期から第二次大戦までの暗い時代をアメリカの覇権が始まった時期として捉え、その時代に強く生きた女性を描いた『マンハッタン・ビーチ』が素晴らしかったので、本書を読みましたが少々期待外れでした。本書は「風変わりなゴシックホラー」とでもいうべき作品だったのです。 

 

物語は、ニューヨークでヘマをして失意のダニーが、仕事で成功を収めたいとこのハワードが買い取った古城の改装事業に協力するよう頼まれ、国境もあいまいな東欧にたどり着いた場面から始まります。しかし外界から隔てられて崩壊寸前の古城は、まるで密室的な魔宮のよう。しかも砦と呼ばれる一郭には魔女のような男爵夫人が住み着いており、アメリカ人たちを忌み嫌っていたのです。奇怪な事件が次々と起こる中でで、ダニーの精神は次第に追い詰められて行きます。 

 

というところで、この物語の外郭が明らかにされます。これはアメリカの刑務所で服役中の囚人レイが、厚生プログラムのひとつである創作クラスで書いている小説だというのです。レイは創作クラスの講師であるホリーに惹かれており、なぜかホリーもレイを特別扱いしている様子。 

 

しかしレイの小説が完成に近づくに連れ、現実世界の様相も微妙に変化していくのでした。刑務所で孤立しているレイが囚人仲間から疎まれるのはともかくとして、ホリーがレイの小説に執着し始めるのです。まるで彼女自身が小説の登場人物のひとりであるかのように。それは彼女の妄想なのでしょうか。それとも・・。 

 

古城といい、刑務所といい、閉塞感が漂う作品でした。ラストではホリーもレイもそれぞれの出口を見つけたようにも見えるのですが、それもまた幻想なのかもしれません。何より、現実と小説の境界が最後まではっきりとはしないのですから。 

 

2020/3