りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

道化師の蝶(円城塔)

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これはペンですと同様、「言葉」を使って文章を書くことにこだわった作品です。芥川賞を受賞しました。

第1章は、稀代の多言語作家・友幸友幸の行方を追うエージェントが日本語に翻訳した、友幸友幸が無活用ラテン語で書いた「猫の下で読むに限る」という小説です。銀色の虫取り網で着想を捉えているエイブラムス氏が、「~で読むに限る」シリーズ本の着想を飛行機の中で得るという物語。

第2章では、エイブラムス氏に雇われて謎の作家を追っているエージェントによって、友幸友幸の謎が語られます。なんと彼は行く先々で違う言語を習得して、その言語で書かれた小説が世界中で発見され続けているというんですね。

第3章では一転して、モロッコで老婆から刺繍と土地の言葉を習っている女性によって、言葉と刺繍と料理の相関性が語られます。第1章に登場する銀色の網は、フェズ刺繍で紡がれていたのでした。

第4章では再びエージェントが登場して、言葉の不思議さについて語ります。「誰も使用しない言語では好きなことを野放図に書ける」のだそうです。そうなると、翻訳という作業が謎めいてきますね。翻訳というテーマは、併録された『松ヶ枝の記』でも展開されていきます。

そして第5章では、エイブラムス私設記念館で働く女性が友幸友幸だと明かされます。彼女は手芸を読み解く力を持ち、エイブラムス氏が捕まえた蝶を見せた老人と会話し、ついには蝶になって飛行機に乗っている男の頭の中に入り込んで卵を産むのです・・。

なんとまあ、わかりにくい小説なのでしょう。言葉は無機質に広がってついには失われ、物語は循環して着地点が見つかりません。しかし、不思議とおもしろい。「さてこそ」、言葉というものは、小説というものは、不可思議なものなのです。

2012/4