りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ラブレス(桜木紫乃)

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親に愛されなかった姉妹の百合江と里美の物語を追うのは、やはり親の愛情に恵まれずに育った百合江の娘・理恵と、里美の娘・小夜子です。

物語は戦後の北海道、標茶の開拓小屋から始まります。極貧の愛のない家は父親・卯吉の酒と暴力に支配され、母親・ハギはひたすら耐えるだけの毎日。娘たちは怯えながら育ちます。

父の借金のカタとして奉公に出され、奉公先の主人に身体を奪われた百合江は、旅芸人の一座に飛び込んで歌手を目指します。しかし、「歌」が自分の人生を変えてくれると信じた夢は儚く破れ、残されたものは父のいない娘の綾子だけ。子連れで結婚した相手は借金まみれで夫婦関係はすぐに冷め、次女の理恵が
難産で生まれた際に、綾子は行方不明に・・。

家を飛び出して釧路で理髪師を目指した妹の里美は、雇い主の息子と結婚して自分の力で店を盛り立てていきますが、強い妻に倦んだ夫は浮気相手との間に子どもを作ってしまいます。やむなく引き取った娘が小夜子でした。

時は過ぎ中年に差しかかった理恵も小夜子も、決して愛に満ちた生活を送っているわけではありません。札幌に出て作家をめざす理恵は離婚しそうですし、小夜子は不倫相手の子を身ごもっています。

独居のまま死を迎えつつある百合江を看取る理恵と小夜子の耳に、百合江が得意だった「情熱の花」の歌がかすかに聞こえてくる・・とのラストまできて読者は気づかされます。傍目には不幸の連続としか思えない百合江の人生は、実は幸せだったのだと。不運や不幸をいつも受け入れ、悲嘆も絶望もせず、ただ懸命に日々の生活を生きてきた百合江は、ある意味で強い女性だったのだと。

「愛なき生」=「不幸」ではないというのは、強いメッセージですね。そのメッセージは、次の世代である理恵にも小夜子にも伝わるのでしょう。行方不明になった綾子の「その後」と、理恵がペンネームに不幸な祖母ハギの名を使っているというエピソードが効いています。直木賞候補にあげられたのも頷ける秀作です。

2012/4