りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

アイガー北壁・気象遭難(新田次郎)

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1978年に出版された山岳短編集です。こうして見ると、山岳小説のドラマは「遭難」にあることがよく理解できます。1964年に出版されたアルプス紀行アルプスの谷アルプスの村の際に着想を得て書かれた作品も含まれています。

「殉職」
40年以上も富士山の山案内人として登り続けた59歳の永島は、7年サイクルで起こっていた遭難事故を思い起こして、その日の登山に不吉さを感じていました。意外な悲しい結末ですが、実話がモデルだそうです。

「山の鐘」
2人の女性にせがまれて登った山で、天候の急変にあって遭難。一行を救ったのは、ベテラン男性ではなく、女性たちの意地の張り合いというところが笑えます。

「気象遭難」
吹雪に逢って遭難しかけている2人の男。すぐ近くには山岳会のテントがあるのですが、トラブルを起こしたばかりなので、素直に逃げ込んでいけないのです。意地など張っている場合ではないのですが・・。

「ホテル氷河にて」
スイスアルプスのホテルに宛もなく滞在し続けている日本人男性が、宿の娘とメイドと宿泊客たちの関係にやきもきします。これは山岳小説というより、妄想小説?

「万太郎谷遭難」
単独で登山をする山ガールが捻挫をして遭難し、目印のマフラーを木に巻いて、動かずに救助を待つ物語。後にマスコミから無謀さを非難される中で、「類を見ないほどあっぱれ沈着な遭難者」と絶賛した者もいたのです。

「アイガー北壁」
マッターホルン北壁登攀に成功した渡辺は、1週間後に挑んだアイガーで滑落し重傷を負ってしまいます。ザイルを組んだ高田が頂上を経て山を下り、救助隊を要請している間に、ザイルで確保されていたはずの渡辺は墜落死。怪我した身体で山頂を目指したのでしょうか。真実が不明なままの実話です。

「オデットという女」
ドロミテのドライチンネで出会ったオデットという女の話。これもほとんど妄想小説。日本人登山家はヨーロッパで何を考えていたのでしょう。ここが第一次大戦の激戦地であったことを記しておきたかった小説と理解してきましょう。イタリア読みでは「トレ・チーメ」です。あそこだ!

「仏壇の風」
山で遭難死した男から形見分けされた高級品のピッケルが、安物にすり替えられていたのは何故だったのでしょう。男には、「山には行かない」と言っていた弟がいたのですが・・。

「魂の窓」
20世紀に入ってはじめて存在を知られた、フランスアルプス中の隠れ里ユフ。この村の伝説的美女「ユフのアネリー」を巡る物語。ヨーロッパでの短編はこんなのばかり!

「涸沢山荘にて」
涸沢(かれさわ)と軽井沢(かるいざわ)を間違ってやってきたバカップル。山を知らない2人は、新雪を横切ってとんでもない事を引き起こします。

他には、大学山岳部員の強い絆が印象的な「白い壁」、新婚夫婦が参加したパーティーで過去の事故を思い起こした男が悪い予感を抱く山雲の底が動く」、結婚したら山を止めるという男が最後に挑んだ単独登攀の顛末を描いた氷雨、コミカルな場所で一夜を過ごして救助された「凍った霧の夜に」が収録されています。

2015/4