りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

天空の犬(樋口明雄)

イメージ 1

南アルプスを舞台にした山岳レスキュー小説です。新人のときに東日本大震災の被災地で救助活動を行って心に傷を負い、山岳救助隊に配置されたハンドラー・星野夏実と、相棒の救助犬であるボーダーコリー・メイの成長物語。

本書の山岳救助隊は警察組織との設定ですが、実際の山岳救助隊は消防組織です。警察組織なのは山岳警備隊なのですが、そのあたりは簡略化したのでしょう。救助犬の訓練や活動体制、救助隊の日常生活などの描写・説明はドキュメンタリー風であったものの、なかなか興味深く読みました。

星野とメイの関わるドラマ部分も、中盤までは良かったですね。一瞬の判断ミスで尊敬する隊長を事故にあ褪せてしまった隊員・深町や、心を開かない同僚のクールビューティ・神崎静奈のエピソードもまずまず。もちろん、メイの同僚となるシェパード犬のバロンや、川上犬のカムイもいいキャラです。星野が共感覚者である悩みも、決してマイナスにはなっていません。

それだけに、終盤の展開は残念でした。VIPのお忍び登頂と杜撰な暗殺計画、突然の女流空手対決などは唐突たっぷりで雑な感じです。政治的な後日談なども不要でしょう。「過去を背負って生きていく」という結末は綺麗だっただけに、強引にストーリー作りに走った個所の残念さが際立ってしまったように思えます。

2015/2