りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

シングル&シングル(ジョン・ル・カレ)

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1999年の作品ですから、プーチンの首相就任前。まだ新生ロシアが混迷していた時代が背景です。

物語の展開は難解です。「神の視点」を入れて、展開を整理してくれればわかりやすくはなるのですが、そうしないのが作風ですからね。全能ならざる個人の視点から事態の全貌を掴むのは、現実生活でも、小説世界でも難しいのです。

英国商社シングル&シングル社の重役がロシアの取引相手を裏切ったとして銃殺され、社長のタイガーは失踪。ロシア人との違法取引から巨万の富を得ていた同社に、何が起きたのでしょう。同社のプリンスであったタイガーの息子オリヴァーは、父親の不正を知って4年前に会社を飛び出し、英国当局への密告者となっていたのですが、今回の事件は彼の知らないところで起きていました。

父の身の危険を察知したオリヴァーは、過去の確執を越えて、失踪した父親の行方を追い始めます。やがてオリヴァーが見出したものは、タイガーと同様、老いて肉親を失った悲しみに暮れるロシア人グループのボスであり、老人たちから実権を奪おうとする国際的な陰謀だったのです。

解説によると本書には、著者自身の父親との関係が反映されているとのこと。かつて大学教員の座を捨ててMI6に飛び込んだ著者が、父親との確執を抱えていたことは有名な事実です。そういえば『パーフェクト・スパイ』も同様のテーマでした。かなり忘れていますので、小説内での父子関係がどう変わってきているのか、読み返してみましょう。

2015/2