りぼんの読書ノート

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革命の倫敦(ラヴィ・ティドハー)

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19世紀末、ヴィクトリア朝のもとで世界帝国を作り上げた英国を舞台に繰り広げられる冒険活劇物語ですが、この世界は少々変わっています。バベッジやテスラによる技術革新によって、オートマタやシミュラクラと呼ばれる機械人形が存在しているのみならず、英国王室が宇宙から来た蜥蜴族に乗っ取られているというのですから。

いわば「スチームパンク伝奇SF」とでもいう作品ですが、ベースとなる世界観は「シャーロック・ホームズ」であり、英国首相はモリアーティ教授、諜報機関のトップはマイクロフト、スコットランドヤードの警部がアイリーン・アドラーという配役。さらに、ディケンズマルクス、ウェルズ、ヴェルヌなど、ヴィクトリア朝の実在・架空の人物がオールキャストで登場する大サービスぶり。

ストーリーは、「オルフェウス伝説」に「貴種流離譚」を絡めたようなもの。自分の出自を知らずに、ただオーファン(孤児)と呼ばれている青年が、本に仕込んだ爆弾を用いるテロリスト「ブックマン」に殺害された恋人ルーシーを求めて彷徨い、冒険に巻き込まれていく物語。それは同時に「自分探しの旅」でもありました。

「ブックマン」の正体は、魂すら転写しえる異形の存在でした。もともと蜥蜴族の従僕であったものが、地球漂着の際に独立したと紹介されますが、彼は歴史すら書き換えているのかもしれません。英国王室(蜥蜴族)の進める火星探査計画(実は外宇宙への救難信号)の阻止に動き出す「ブックマン」でしたが、真の目的は別のところにあったようです。

かなり荒唐無稽な物語ですが、よく纏まっています。個人的には、英国の機械人間を束ねる最古のオートマタ「チェスを指すトルコ人」と会見した後のマイクロフトが、チェスの比喩を頻繁に用いるようになるクダリが、ツボに来ました。

2015/2