りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

これからお祈りにいきます(津村記久子)

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津村さんには珍しく、男子学生を主人公とした中編と短編から成っています。いつもの女性主人公と同様にテンションの低い男たちなのですが、それぞれ「熱くなる」祈りの瞬間がやってきます。

「サイガサマのウィッカーマン
大阪南部の雑賀町では「サイガサマ」という、人間の願いを叶える代わりに人間の体の一部分を取っていくという奇妙な神様が信仰されています。冬至の祭りには「サイガサマに持って行かれたくない」という身体の部分を「申告物」として粘土や紙細工などで作って燃やすという奇祭すらあるほど。タイトルの「ウィッカーマン」とは人身御供とか生贄という意味ですね。

高2のシゲルの家庭は、父親は不倫、母親は現実逃避、弟は引きこもりと崩壊寸前。公民館で清掃のバイトをしていたところ、サイガサマを祀る神社の宮司であり、役場の職員もしているヤシロさんに見込まれて、祭りで燃やす「申告物」を作る教室の手伝いを頼まれます。一方でシゲルは、同級生の女性セキヅカに淡い思いを抱きながらも、吹き出物だらけの顔を気にして打ち明けることもできません。そして祭りの日に、ちょっとした奇跡が起こります。

「バイアブランカの地層と少女」
京都で観光客相手の学生ガイドをしている作朗がモテないのは、心配性で、貧乏で、ファッションセンスがないから? 振られた悔しさをガイドの勉強に向けようと、京都に興味のある外国人のネットコミュニティに加わった作朗は、交換留学生として日本に行きたいというアルゼンチンの少女とメル友になります。彼女の悩みを聞いているうちに突然、アルゼンチンへと向かおうとするのですが、この事件のアンチクライマックスな顛末は前振りです。

以前に思いを寄せていた女性から声をかけられ、デートの約束をとりつけたのに、いてもたってもいられなくなって、アルゼンチンの少女のために祈りを捧げる作朗だったのですが・・。

2編とも、不器用な主人公が、「自分は関係ないところで誰かのために祈る」作品です。不器用だからこそ、その祈りは純粋です。神ならぬ著者だって、こんな祈りを見たら、ちょっとした奇跡を準備したくなるのでしょう。昨年秋に、京都西山の善峯寺を訪れた際に、「自分でない誰かのために祈りましょう」とあって、今まで自分の願いばかりを祈っていたことを恥ずかしく感じたことを思い出しました。

2015/1