りぼんの読書ノート

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スコールの夜(芦崎笙)

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第5回日経小説大賞受賞作です。審査員からは「政治・経済・産業社会のダイナミズムを真正面から小説化」とか、「キャリア女性の一級の成長物語」とか評されていますが、そんなに企業の実態が書けているとは思えません。むしろ「リアリズム」とか「インサイダー」と言われた分、小説としての出来栄えが見劣りしているようにも思えます。

平成元年に東大法学部を卒業、都市銀行に女性総合職1期生として入行した吉沢環は、女性初の本店管理職に抜擢されています。総会屋・暴力団への利益供与や不祥事隠しの役割を担ってきた子会社の解体という「汚れ仕事」に乗り出しますが、女性への偏見や差別に悩まされます。一方で、頼れるはずの上司も彼女を悪役にして急場を乗り切ろうとしているようで・・。

著者が書きたかったのは「組織と個人の関係」だったとのことで、それなら女性を持ち出さなくてもよかったかもしれません。女性蔑視による差別とか、女性優遇による逆差別とか、ネットでの誹謗中傷とか、恋愛問題とか、「女性」を意識したテーマに逃げてしまったようにも思えます。それと、10歳年下で野心家でバランス感覚に優れ、バイタリティを持つ後輩の明日香のキャラが類型的です。

仕事を終えて休暇を取り、嫌味な超エリート弁護士の意外な側面であった、カンボディアでの地雷除去ボランティアに同行するというエンディングには唐突感もありますが、私としては、本編よりもこっちの感覚を掘り下げて欲しかったですね。

2014/6