りぼんの読書ノート

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人間の性はなぜ奇妙に進化したのか(ジャレド・ダイアモンド)

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原題は「Why is sex fun?」。キワモノのような書名ですが、銃・病原菌・鉄文明崩壊の著者による、れっきとした文明論です。

著者はまず、「ヒトの性生活は、他の動物と比較してみると極めて奇妙である」ことを指摘します。すなわち、「結婚、共同での子育て、社会の一員としての夫婦関係、内密な性交、排卵の隠蔽、閉経」という特性は、ほとんどヒトにしか見られないものであるというのです。それは、直立二足歩行や大型の脳と並んで、ヒトが文化を発展させた重要な要因となっているのでしょうか。

著者の答えは「YES」です。それらは全て、生まれてくる子供が自分の子どもかもしれないとオスに思わせるための、「メスの遺伝子保存戦略」だというのです。オスに子殺しをさせず、あわよくば子育てをするマイホームパパとして囲い込むためのリスク回避策なんですね。その結果、極めて長い幼児期と社会性の獲得が可能となったというのでしょう。

しかし、ヒトのオスは今後も必要なのでしょうか。著者の主張は、オスが性衝動に突き動かされてメスの気を引く行為は、今となっては「メスの遺伝子保存戦略」の妨げとなりつつあるのではないかという問題提起にまで至ります。浮気や育児放棄などの家庭問題として現れるだけでなく、「人口増加の結果、資源配分を巡る衝突が激化する」という文明崩壊の引き金レベルにまで及んでいるというのですから、ことは重大です。オスを不要化する人工授精こそが、「メスの戦略」の完成形のようにも思えてきます。

2014/6