主人公は3人。農薬散布事故に遭遇して「第二の放射能」と暴言を吐いてしまい後悔する若手養蜂家の代田。農薬会社の開発責任者でありながら化学物質過敏症状の息子を持つ平井。セシウム汚染米出荷停止を告げる役割を担わされた農水省女性キャリアの秋田。
農薬散布事故をきっかけに、3人は否応なく食と安全の問題に巻き込まれていきます。代田はマスコミや農薬反対論者に接近され、平井は会社のCSR推進室長に抜擢され、秋田は農産物輸出のビジネス戦略担当に。それとともに本書のテーマも、農薬問題から遺伝子組み換え作物(GMO)へ、さらにアメリカ企業の戦略や、中国の挑発など世界の食糧問題へと広がっていくのです。その中で、日本の食糧戦略の立ち遅れが浮き彫りになっていくのですが・・。
農薬には毒性があり、GMOにも耐性害虫、毒性たんぱく質、生態系への影響など未解明の部分も多く残されています。一方では食糧確保の問題がある中で、物事を二極化して対立構図で考えてはいけないのでしょう。新技術万能の錯覚も、理解できないものへの恐怖も正しくないのです。たとえば本書で示されたように「農薬会社の屋上で蜂を飼う」ようなところから、何かが始まるのかもしれません。
経済問題には抜群の切れ味を示す著者ですが、人間を描くのも上手になってきたように思います。でも、まだ不要な人物やエピソードもあったかも・・。
2013/6