りぼんの読書ノート

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黙示録(池上永一)

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テンペストを19世紀後半に琉球文化が消滅に至る過程を描いた小説とするなら、本書のテーマは、18世紀前半に琉球文化が成熟に至った過程です。琉球文化を大和でも清でもない独特のものとしているのは、「舞踊」だったのです。

時の王・尚敬が琉球を隆盛に導く「太陽(てだ)しろ」なら、王を支える「月しろ」は誰なのか。王の後見役として最高役の国師に抜擢された蔡温は、最下層の生まれながら才能に溢れた少年・了泉を見出します。一方で、踊奉行の玉城里之子は優等生タイプの弟子・雲胡に期待をかけるのです。

並の小説なら、この2人のライバル関係を描くのでしょうが、池上さんは一味違います。両者を競わせて新しい琉球の踊り「組踊」を作り上げた後は、徹底して了泉を地獄に落としていくのです。雲胡の婚約者である清楚なお嬢様・阿麻呼を手篭めにしてしまって畜生道に落ち、踊りの対決でも雲胡に決定的な敗北を喫し、さらには殺人まで犯して自ら破滅。長い年月をかけて立ち直った後も、踊りの対決を挑んできた息子を自殺させてしまう有様。

いったい「月しろ」とは何なのか。「舞踊」とは誰のためのものなのか。琉球文化の真髄とは何なのか。著者の思いが明らかになってくるラストに向かって、物語は疾走していきます。玉城里之子に踊奉行の座を追われて了泉の師匠となる石羅吾、薩摩の超ポジティブ剣豪の樺山聖之介、心優しき道化のチョンダラー、異常なまでの存在感の無さがウリの瓦版屋の銀次、アバズレお嬢様の折揚、ヒロインなのに最低の扱いを受ける音知戸、病を得て洞窟に棲む了泉の母・美子麻など、脇役も充実。

「観客を目で縛り、呼気で魅了し、指で笑う」という、琉球舞踊の描写もいいですね。チョコレートコスモス(恩田陸)で、「広場にいたはずの少女が一瞬消えた」動きを見せる飛鳥や、サウンドトラック(古川日出男)で「見る者の精神を揺らすダンス」を踊るヒツジコを思い出しました。

2014/6