りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

空襲警報(コニー・ウィリス)

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「ベスト・オブ・コニー・ウィリス」として、中短編のヒューゴー賞ネビュラ賞受賞作品ばかりを集めた2分冊のうちの「シリアス編」です。姉妹編の混沌ホテルは「ユーモア編」。

「クリアリー家からの手紙」
コロラドの高山に住む一家の生活は素朴で単調です。ある日、14歳の娘リンが郵便局から持ち帰った友人家族からの手紙は、コロラドへの避難を相談するものでした。しかも日付は2年前。世界は核戦争によって滅んでいたのです。著者のデビュー作です。

「空襲警報」(既読:旧題「見張り」)
著者が得意とするオックスフォード史学部によるタイム・トラベル作品です。ロンドン大空襲下のセント・ポール大聖堂で火災監視員となった学生バーソロミューの日記。同僚のラングビーをスパイではないかと疑い、焼け出されてマーブル・アーチ駅で寝泊りしている女性エノラの運命を気遣うのですが・・。歴史とは記録上の数字や記述ではなく、人々の記憶の積み重ねであると気づくというテーマは、後のブラックアウトオール・クリアに結びついていきます。

「マーブル・アーチの風」(既読)
ロンドンの地下鉄で突然吹き付けてくる不思議な風は、過去の空襲被害と関係しているのでしょうか。友人の浮気、快活だった長老の老い、そしていずれ訪れる死。人生の終わりへの予感と不安は航路とも共通するテーマです。

「ナイルに死す」
3組の夫婦のエジプト旅行が不思議な展開になっていきます。これは「死者の国」への旅立ちなのでしょうか。サイコホラーのような作品です。友人が音読するガイドブックの記述が不気味に聞こえてきます。これも航路と同時期の作品のようです。

「最後のウィネベーゴ」(既読)
最後のRV車を取材に行く写真家が思い出したのは、愛犬の死の記憶でした。新型ウィルスで犬が死滅した世界を描いて、滅んでいくものたちへの哀悼をしみじみと謳いあげます。愛するものは皆、緩やかに滅びつつあるのです。

巻末に収録されたスピーチ原稿もいいですね。物語を読むことの楽しさが伝わってきます。ここにあげられた本を、全部読んでみたくなりました。

2014/6