りぼんの読書ノート

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吾輩は猫である(夏目漱石)

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夏目漱石のデビュー作です。帝国大学卒業後に東京・松山・熊本で英語教師を勤めた後にロンドン留学。帰国後に東京帝大講師を勤めながら、38歳の時に書き上げた作品です。先日、本書の元ネタのひとつではないかと言われるチビ犬ポンペイ冒険譚(フランシス・コヴェントリー)を詠んだ機会に、再読してみました。

珍野家で飼われている「名前のない」雄猫を語り手とし、飼い主で英語教師の苦沙弥先生、ほら吹き粋人で自称美学者の迷亭、元教え子で理学士の水島寒月、寒月の友人で詩人の越智東風、哲学者の八木独仙らが織りなす人間模様を風刺的に描いた作品であることは、誰もが知っている通り。苦沙弥先生と漱石に共通点が多いことは有名ですが、迷亭漱石の分身であるとの説もあるようです。

雄猫の初恋相手であった三毛子の死、寒月の縁談、泥棒事件、苦沙弥先生と中学生たちとの対決、寒月の結婚、そして雄猫の溺死という物語が続きますが、ストーリーを重視すべき作品ではありませんね。あくまでも人生を肯定的に楽しむ者たちの会話の妙を味わう作品なのでしょう。当時「私小説」に矮小化しつつあった「自然主義文学」へのアンチテーゼであったことは間違いありません。

しかし終盤になって漱石の本音も顕れます。西洋文化に発する個人主義自由主義と、東洋的な思想の葛藤を論じ合う場面です。本書ではまだ未分化ながら、「自己を確立した上で去私を求める」という「近代の相克」思想の萌芽が既に顕れているようです。本書の中のいくつかのエピソードが、江戸文化の粋である「落語」をモチーフにしていることも見逃せません。

2018/4再々読