りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2014/5 海賊女王(皆川博子)

通称「銀背」なる「新☆ハヤカワSFシリーズ」の第2期出版が始まりました。1冊目が本格ハードSFの『白熱光』、2冊目がコミック要素を多分に含む『レッドスーツ』というラインアップも嬉しい限りです。

1位とした『海賊女王』には主人公の魅力に加えてスケールの大きさを感じました。ランキング外とはしましたが、清水次郎長の遠縁にあたるという諸田玲子さんの「次郎長関連小説」はおもしろいですね。現在も次郎長の養女の物語を日経新聞に連載中です。

1.海賊女王(皆川博子)
イングランドによる支配が強められていった16世紀に、誇り高く生きたアイルランドの女海賊が、晩年に差し掛かったもうひとりの「海賊女王」エリザベス1世と対峙します。立場の異なる2人の海賊女王の接点と、英国王室にまつわる秘密の存在とは何だったのでしょう。『村上海賊の娘』の景(きょう)とも共通点を思わせる魅力的な主人公が、辛く苦しい時代を生き抜いていきます。

2.冬虫夏草(梨木香歩)
百年ほど前の日本。亡き友人の実家の家守を任された新米文筆家が、ごく自然に四季折々の怪異と共存する『家守綺譚』の続編です。失踪した愛犬の捜索のために、イワナの夫婦者が営むという宿屋を目指して秋深い鈴鹿山中に踏み込んだ主人公は、異変に気づきます。「生きるための変化」を前にして「過去の記憶」は救いのように思えてきます。

3.白熱光(グレッグ・イーガン)
未知のDNA基盤生命体の存在を知らされた冒険家たちが銀河系中心部を目指す「奇数章の物語」と、危機の到来を前にして絶滅を回避するために不可能な課題に挑む種族の「偶数章の物語」は、どう関係しているのでしょう。最後に明示された「文明レベルの異なる接触の際の倫理」の問題は、本書のはじめから提示されていたテーマだったのです。

4.レッドスーツ(ジョン・スコルジー)
憧れの宇宙艦隊旗艦に配属された銀河連邦の新任少尉が気づいたのは、平均値を大きく上回る遠征任務、異常に高いクルーの死亡率、絶対に死なない上級士官たち・・。この宇宙船で起きていることは、20世紀のできの悪いスペースオペラと似通っているのです。「世界の仕組み」を変えるための、奇想天外な冒険は成功するのでしょうか。本編の後のエピローグの存在が、本書をコミックに終わらせていません。

5.ダンスシューズで雪のシベリアへ(サンドラ・カルニエテ)
スターリン時代にラトビアからシベリアに「流刑」とされた者は、のべ8万人とも言われています。ソ連とドイツの間を揺れ動かざるを得なかった小国の苦難を、「罪人」扱いされた祖父母たちや両親の日記や記録をたどって、シベリア生れの著者が再現していきます。逮捕当日に持っていたダンスシューズでシベリアの冬を過ごさざるを得なかったのは、まだ少女にすぎなかった著者の母親です。


2014/5/31