りぼんの読書ノート

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青嵐(諸田玲子)

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「次郎長に佐十郎というお兄さんがいてその子どもの一人に、満(ま)つという女の子がいたんです。満つは次郎長と血のつながった姪に当たります。次郎長には子どもがいなかったので養女にして、お嫁に出したりしているんです。その満つが、私の祖母の祖母に当たるんです。やくざの話は嫌がって誰もしゃべらなかったので、私は二十歳ぐらいまで知らなかったんです。 」

静岡出身の諸田さんは、清水次郎長の養女になった姪の子孫でした。次郎長一家にまつわる物語を数編書いているのには、理由があったのですね。現在日経新聞に連載中の『波止場浪漫』の主人公は、次郎長の養女けんですが、本書は次郎長の元に身を寄せていた、対照的な2人の松吉の物語。

ひとりは「一の子分」として名を馳せた、森の石松こと三州の松吉。水呑百姓の父親から家を追い出された石松は、地元の侠客である森の五郎に育てられますが、妹のように思っていた少女を嬲った侠客を斬って、清水一家に匿われます。博打も喧嘩もめっぽう強くて兄貴肌ながら、「馬鹿は死ななきゃ直らない」とからかわれるような愛すべき人物に育ちます。

もうひとりは、デブで大酒呑みで大喰らいながら、女も博打も大の苦手の豚松こと三保の松吉。侠客どうしの殺傷事件に巻き込まれて家を出た豚松は、やはり清水一家に匿われて、意外な人望を勝ち得ていきます。対照的ながら、互いを認め合って仲の良い2人でしたが、幕末の東海道を駆けぬけた彼らを待ち受けていたのは、苛烈な運命だったのです。

『東海遊興伝』の著者・天田五郎が次郎長の思い出話を聞き書きしているところを、2人の松吉があの世から盗み聞きしているという形式で進んでいく物語。明治維新後に実業家・篤志家への道を歩もうとする次郎長一家の変質ぶりも、当時と比較されています。乱闘の中で死んだ2人が最も幸せだったのは、誰もが若くて貧しく、必死にやりくりをするお蝶姉さんを皆で慕っていた時代だったというのですが・・。

諸田さんの、次郎長関連の作品は面白そうです。次は二代目お蝶を主人公にした『からくり乱れ蝶』でも読んでみましょうか。

2014/5