りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

第六ポンプ(パオロ・バチガルピ)

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ねじまき少女の著者が描く未来像は、もちろんディストピアなのですが、そんな中でも必死に生きていく人々の姿には、かすかな希望が感じられるのです。「カロリーマン」と「イエローカードマン」は『ねじまき少女』と同じ世界です。

「ポケットの中の法」
生きている構造物が空高くそびえる中国の成都。地表に住む少年乞食が預けられたデータキューブには、とんでもないものが入っていました。死せるダライ・ラマの精神がキューブに保存されている限り、生まれ変わりは起きないのでしょうか。

「フルーテッド・ガールズ」
改造された個人が株式市場で売りに出され、投資対象となっている未来社会。「フルート化された姉妹」とは、いったいどんな少女なのでしょう。姉は自殺を試みるのですが・・。

「砂と灰の人々」
腹の中にゾウムシを飼うようになった人間は食物連鎖を超越して、砂や石や毒素で生きていける時代。人間以外の生態系は破壊されています。鉱山に迷い込んだ本物の犬を見つけた3人の防衛隊員は、飼うことにするのですが、自然の動物のあまりの脆さに驚きます。いや、人間の変わりようのほうが驚きです。

「カロリーマン」
エネルギーが枯渇して汚染された世界で、カロリー企業の支配を打ち破るには、何が必要なのでしょう。世界を変えられると豪語ずる男を、カロリー企業の本拠地ニューオリーンズから密出国させるよう頼まれた男は、密かにミシシッピを下るのですが・・。

「ポップ隊」
永遠の生命が実現した世界では、人口爆発を防ぐため出産は禁じられえいます。無許可出産した母子を処理するポップ隊員の男は、どうして美しく豊かに長生きする生活を捨てて、貧しく汚く老化する「出産」を選ぶ女性がいるのか、理解できません。

イエローカードマン」
かつてグローバル企業の経営者だったチャンは、東南アジアの華人迫害の波に飲み込まれて、今ではイエローカード難民に落ちぶれています。かつてクビにした男からも見下される底辺の生活の中で、ついに彼が掴みかけたチャンスとは?

「第六ポンプ」
汚染化学物質の摂取過剰のため、出生率の低下と痴呆化が進行したニューヨーク。市の下水処理場で働くトラビスは、上司も部下も何の仕事もしないことにあきれています。異常が続くポンプの調査に地下へ降りてみると、何世代も放置されていたことがわかります。過去の頑丈な機械が寿命を迎えるときに、文明は崩壊してしまうのでしょうか。

他には、伝統に忠実で排他的な種族出身ながら知識人となった青年が反戦平和のためにとった手段を描いた「パショ」。大渇水の西部アメリカで水利権を持つカリフォルニア以外が砂漠化していく「タマリスクハンター」。妻を殺してしまい殺人を告白するものの普通の日常が続いていく「やわらかく」が収録されています。

2014/3