イラク戦争で心身に傷を負った海兵隊員を死を意識した暴走から救ったのは、傷だらけでたったひとり、山道を歩んでいた犬でした。その孤独な犬の首輪に刻まれていた名前は「GIV」。ギブが歩んできた道筋を逆にたどった海兵隊員が見たものは、犯罪、虐待、戦争、天災に傷ついたアメリカという国でした。しかしそこには同時に、無名の人々の優しさもあったのです。
亡くなった老婆からモーテルを受け継いだハンガリー移民の女性。悪辣な兄と善良な弟のバンドマン。ハリケーン・カトリーナの犠牲になった若い女性アーティスト。そしてイラク戦争帰りの海兵隊員。理不尽な世界に立ち向かって敗れた人たちに寄り添ってきたギブの物語は、安っぽい感動とは無縁です。しかしギブの視線に贖罪的なものを感じ取ることは、誤った読み方ではないと思うのです。
2018/6