りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

月下におくる(堀川アサコ)

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40代で日本ファンタジーノベル大賞を受賞した著者が、青春時代に個人のウェブサイトに掲載していた小説を大幅に改稿した作品です。小学生の頃に「沖田総司ブーム」を体験したという著者は、「理想の男性」として描いた主人公を、迷い悩む普通の若者として描き直したとのこと。ついに現れなかった「理想の恋人」に対する落とし前だそうです。

前半は、近藤勇の試衛館の内弟子となって並外れた剣才を現した少年が、大人になるまでの物語。幼馴染の友人と、淡い恋心を抱いた少女を惨殺した武士に復讐を果たしたものの、友と恋人を守れなかった後悔の念と、狂気の武士に裁きを下せない不条理に苛まれます。

後半は、新撰組一番隊長となった青年が、病に倒れるまでの物語。幕末の複雑な情勢は、京を騒がす勤皇志士と正々堂々と闘うことだけを許してはくれません。初代局長の芹沢鴨の暗殺、捕縛した古高俊太郎の拷問、脱走者の処刑、島原太夫の裏切りなど、矛盾に満ちた世界の中でもがき苦しんだ青年が、最後に見たものは何だったのでしょう。

いや、これでもかなり「理想の恋人」っぽいですよ。冒頭とラストのシーンは、幻想シリーズの著者らしい仕掛けですね。

2018/6