りぼんの読書ノート

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七つの会議(池井戸潤)

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以前の作品にもあったようなテーマですが、筆がこなれて読みやすくなっているだけでなく、悪役を演じることになる人たちの背景まで書き込まれて深みを増しているように思います。著者はこの作品について、「ベストじゃない環境の中でも生きていかなきゃいけない人たちを描いた」と述べていますが、企業組織と企業倫理の問題は難しいですね。誰しも「企業倫理優先」と頭ではわかっているのですが・・。

きっかけは、トップセールスマンだったエリート課長がパワハラで社内委員会に訴えられたことでした。訴えたのは年上ながら万年係長でダメ社員の烙印をおされている男。あっても訓告程度だろうとの社内予想が覆されてエリート課長がポスト・オフされた背景には、別の秘密があったのでした。

その秘密を巡って、後任課長、部品を納入する零細取引先の社長、不倫の末に退社を決意したOL、昇進志向の経理課員、出世コースから外れた顧客相談窓口、親会社から送り込まれた副社長などが推理を巡らせます。そして明らかになったのは、この会社どころか、親会社の経営さえ危うくしそうな大問題だったのですが、親会社の「御前会議」で本社社長が下した決断とは・・。

はっきり言って、こういう会社はダメですね。厳しいノルマ、激烈な社内競争、他部署への無関心、親会社での競争に敗れて天下った重役、子会社プロパー社員との軋轢・・いかにも「企業組織優先の論理」がまかり通りそうな環境です。そんな中では、個人的な人間性はすりつぶされてしまいそう。とはいうものの、このような環境は、程度の差こそあれ、どこにでもある問題なのでしょう。

著者は、どの人物にも善悪の判断は下していません。あまりにも自分勝手な男も登場しますが、これだって会社の大問題の前には霞んでしまいます。でも、本当はこういうところが重要なんでしょうね。会社以前に、本人の生き方の問題ですから。その意味では、本筋からは離れる感はあるものの、不倫相手との救われない恋愛に区切りをつけてドーナツ屋をはじめる女性と、彼女に適切なアドヴァイスをする同僚のエピソードが、本題と対比されるべき重要なテーマであったように思えます。

2013/6