りぼんの読書ノート

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万物理論(グレッグ・イーガン)

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すべての自然法則を包み込む単一の「万物理論」の完成を目前にした3人の物理学者の中で、誰の説が正しいのでしょうか。科学ジャーナリストのアンドリューは、3人の中で最年少の女性学者モサラに密着取材するのですが、万物理論の完成を妨害する反科学カルトの襲撃を受けてしまいます。

反科学カルトというと、「ラッダイト運動」のように進歩に反対する無知な集団と相場は決まっていますが、この作品に関してはそうではありません。もちろん無知カルトが多数なのですが、本書のポイントはACと呼ばれる反科学カルトが万物理論の本質を見抜いていたということなんですね。ACの唱える「人間宇宙論」では「誰が観察者になるのか」が極めて重要だったのです。山本弘さんのMM9の元ネタはここでしたか。

本書の舞台となる「ステートレス」という、バイオテクノロジーによって生みだされて成長する島の存在も、アンドリューがフォローしていた新種の伝染性らしき症状の出現も、この時代の常識となっているジェンダーの混乱もが、エンディングに向かう伏線となっていきます。これだけ長い作品を、よくまとめたものです。

結局本書は、アンドリューが自分の身体性を認識して、その社会性を自覚していく過程を描いた作品といえるのでしょう。その背景には「宇宙の根源」=「自分自身」という楽観的な理論があるのですが、「万物理論」などという、いかにもハードSF的なタイトルに身構えさえしなければ楽しめるはず・・だと思います。

2013/6