りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ペルセウス座流星群 -ファインダーズ古書店より(ロバート・チャールズ・ウィルスン)

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時間封鎖シリーズの著者による連作短編集です。各短編は、トロントにある「発見者」の名を持つ謎めいた古書店を接点としてゆるやかに繋がっているものの、むしろひとつひとつ独立した「非日常の物語」としての性格が強いようです。ジャンルとしては、SFというより幻想文学ですね。

アブラハムの森」 両親を亡くし、心を病んだ姉と暮らしている移民の少年ジェイコブの楽しみは、古書店の老店主とのチェス勝負でした。しかし少年の才能は、思いもよらない世界の扉を開けてしまいます。やがて少年は次の店主となり・・。
 
ペルセウス座流星群 天体観測を趣味とするマイクルは、友人たちの集まりで勢力圏という概念について説明されます。「生命がそれぞれの勢力圏を占拠して生態系を創出してゆく」というと、『シリーズ』の「仮定体」を思わせますね。
 
「街のなかの街」 仲間うちの討論会で新しい宗教を発明するというテーマを課せられたジェレミーは、トロントの街そのものを宗教とすることを思いつきます。しかし、そんなテーマを与えた人物は謎めいた存在であり、ジェレミーは都市のなかにもうひとつの異貌の都市を幻視するという不思議な体験を・・。

「観測者」 幼くして母を亡くした15歳のサンドラは、夏休みに滞在したカリフォルニアの叔父を通じて、老天文学者ハッブル神秘主義作家ハクスリー、後にUFO研究家となるアダムスキーと出会います。天体観測に興味を持ったサンドラでしたが、不用意に望遠鏡をのぞいたらいけないのです。向こうもこっちを見返すのですから。

「薬剤の使用に関する約定書」 蟻は化学物質の分泌で会話しているんですね。精神科で集団療法を受けたボブは、隣人のマイキーが大量の薬剤を飲んでいることを不思議に思います。マイキーと蟻の不思議な関係は、やがてボブの娘にも及び・・。

「寝室の窓から月を愛でるユリシーズ ポールの妻リーアに下心を抱くマシューは、ポールの飼い猫ユリシーズを通じて、何者かが人類を保護していることに気付かされてしまいます。まるで人間が飼い猫を保護するように。

プラトンの鏡」 ハッタリを利かせたトンデモ本プラトンの鏡』で一発当てたドナルドは、ファンを名乗る女性から古びた鏡を渡されます。世界の真実を映し出すという鏡は、人間の周囲にいる目に見えない支配者の姿を・・。

「無限による分割」 最愛の妻を亡くしたビルは、妻の勤め先だった古書店で数冊のSFペーパーバックを借りたのですが、どれも存在するはずのない作品でした。まさかそれが、中性子星衝突が引き起こすガンマ線バーストによる人類滅亡と関わっているとは・・。

「パール・ベイビー」 ファインダーズ古書店の経営を引き継ぐことになったディアドラは、原因不明の腹痛に悩まされていました。、異形の存在を産むというのは、女性にとって最大の恐怖でしょう。彼女は「街のなかの街」にも登場していましたね。

2013/6