りぼんの読書ノート

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インターネットを探して(アンドリュー・ブルーム)

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自宅のケーブルをリスにかじられてインターネットと切断された体験から、著者は「モノとしてのインターネット」を強く意識し始めます。つい数年前までは夢として語られていたユビキタス社会もほぼ実現した現在、どこにでもあると思いがちなインターネットですが、情報ネットワークを可能にしているインフラを捜し求めて、著者は世界中を巡ります。

世界で初めてネット通信が行われた際に用いられたルーター、現実にインターネット同士が接続をしているビルディング、各大陸を結ぶ光ファイバーの海底ケーブル、グーグルやフェイスブックのデータセンターなど、それこそあらゆる「場所」に取材に出かけるんですね。

しかし、著者が見出したものは無数のルーターとケーブルとハードディスクでしかありません。そこを流れる膨大な情報を見ることはできませんし、著者がエピローグで書いているように「インターネットの物理インフラには多くの中心が存在するが、ある特定の観点から見れば中心はひとつしかない。あなただ。ぼくだ」という結論は、一周回って元に戻ってきただけのよう。

しかし、著者にとっても読者にとっても、本書の意義は大きいのです。「インターネットは現実世界でも仮想世界でもなく、人間の世界である」と、あらためて認識することができたのですから。本書は、インターネットが神でも魔法でも虚無でもなく、さまざまな政治や市場の働きによって支えられている「現実の存在」であることを思い返させてくれるのです。その認識の上に立ってはじめて、増え続けるデータ保存のために原発30基分の電力が必要ととなっており、数年後にさらに数倍の規模となるという問題を捉えることができるんですね。

はじめて電話回線でインターネットに接続したことや、無線LANの設定に苦労したことを思い出しました。家庭にネットが繋がったのは、そんなに昔のことじゃないのですから。

2013/5