りぼんの読書ノート

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ブラックアウト(コニー・ウィリス)

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ドゥームズデイ・ブック犬は勘定に入れませんに続く、未来のオックスフォード大学史学生による時間旅行シリーズ第3弾です。

主人公は、第2次大戦下のイギリスの現地調査に送り出された3人の史学生。マイクルはアメリカ人記者としてダンケルク撤退を、メロピーは郊外の屋敷のメイドとして疎開児童の生活を、ポリーはデパートの売り子としてロンドン大空襲下の市民の姿を観察するために過去へと向かったのですが、それぞれ思わぬトラブルに巻き込まれて未来へと戻れなくなってしまいます。

マイクルはダンケルク救出劇に巻き込まれて英雄的な活躍をして負傷してしまうし、メロピーは悪ガキたちに悩まされると同時に可愛そうな疎開児童を放っておけなくなり、ポリーは安全な場所のはずだった降下点が爆風で立入禁止になってしまうし・・。

時間旅行の原則に反して歴史を改変してしまったからなのか。時間旅行システムに障害が生じたからなのか。それとも単なる手違いで救出隊と出会えないだけなのか。そもそも彼らが体験していることは「史実」通りの出来事なのでしょうか。

3人が送り込まれた時点は少しずつ異なっていたのですが、それぞれ他のメンバーの帰還機会を利用しようと、迷路のようなロンドンで互いを探しあいます。そしてついに出会うことができたのですが、3人とも同じ境遇だったことに唖然。

ここで読者も唖然とさせられるのです。こんなに長い小説がまだ「前半」にすぎず、「後半」にあたる『オール・クリア』は8ヶ月先でないと出版されないと知らされて・・。しかし待つしかありません、こんなに面白い小説を前半だけでやめてしまうわけにはいきませんから。

著者は、9.11テロに巻き込まれた若者のエピソードから本書の構想を得たといいます、周囲の様子がわからない絶望的な状況の中でも生き延びようと努力する者こそが、真の英雄だというんですね。それは3人の主人公だけでなく、彼らが出会う市井の人々の姿と重なります。ダンケルクの救出に乗り出す漁船の船長たちや、バトル・オブ・ブリテンで空中戦を繰り広げるパイロットばかりではありません。戦争の中でもデパートで買い物をし、演劇の催しを準備し、子供たちに本を読み聞かせて普段と変わらない生活を築き上げようとする普通の市民たちこそ英雄だというのです。

ともあれ、3人の主人公が知っているはずの史実と実際に周囲で起きていることとの認識の違いや、勘違いやすれ違いが起こすドラマが生み出す面白さは、このシリーズの前2作と少々異なるテイストですが、著者の円熟が生み出したものなのでしょう。ともかく続編を早く読みたい!

2013/2