りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

オール・クリア2(コニー・ウィリス)

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ブラックアウトから続いてきた長い物語がついに完結します。

第2次大戦下イギリスの現地調査から戻れないまま苦闘を重ねるマイク、メロビー、ポリーに新たな問題が発生。3人を救出に向かったオックスフォード大学のダンワージー教授もまた、この世界に閉じ込められてしまったのです。これまで時間旅行を可能としてきた「時空連続体」の理論は根本から間違っていたのでしょうか。そしてポリーを慕うコリンは、約束通り彼女を救出できるのでしょうか。

1941年のロンドンでマイクは爆死。では1944年のドーバーでノルマンディー上陸作戦の偽装工作を行っているのは誰なのか。彼を探しに来たトラベラーとは誰だったのか。以前にV2空襲下のロンドンで救急活動を行い、1945年のVEディでメロピーを目撃したことのあるポリーのデッドラインは、いつなのか。それは、メロピーがそれまでこの世界から抜け出せないことを意味するのか。ダンワージー教授の失望は正しいのか?

しかし前巻まで深刻さを増していたトーンは、終盤になって徐々に明るくなってきます。3人が接触した人々は「時空連続体」に抹殺されるどころか命を救われているようなのです。しかもメロピーのもとを離れない悪魔的なビニーとアルフのホドビン姉弟の影響は「天使級」。では戦時中の降下点を閉鎖した「時空連続体」の「意図」とは何なのか。

全ての謎が解決されたラストで、読者を包み込むのは深い感動です。第二次大戦に勝利するために普段の生活の中で闘った人々の懸命さと、タイムトラベルの障害から生き延びようとする3人の懸命さと、彼らを救出しようとしたコリンの懸命さとが調和するのです。それに加えて1942年のメロピーの決断が、VEディでポリーを発見したときの「これから私たち、大親友になるのよ」のつぶやきが、涙腺を緩めさせてしまうのです。

突然の災厄に襲われて先が見えない中で奮闘する普通の人々・・彼らこそが「勇者」です。サー・ゴドフリーや防空壕劇団のメンバーたちも、セント・ポールを守り抜いた消防隊員も、教区のグッド牧師も、夫人救急隊のレディたちも、もちろんホドビン姉弟も、その他多くの人々の全てが! この時代の日本で本書を呼んだことが感動を倍加させていることは疑いありませんが。

2013/9


(追記)1995年のパートでビニーが気づいたことは、いかにもタイム・パラドックスらしい「蛇足」ですが、これがまたいいのです。