りぼんの読書ノート

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推定無罪(スコット・トゥロー)

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言わずと知れた法廷ミステリの最高傑作です。キンドル郡の主席検事補を勤める主人公サビッチが、自ら捜査していた女性検事補キャサリン殺害犯の容疑者として訴追される物語。一時期はキャサリンと不倫関係にあったサビッチですが、殺害などは全く身に覚えのないこと。

しかし、犯行現場に残されたコップについた指紋も、遺体に残された精液も(まだDNA検査のない時代です)、その他の状況証拠もみな、サビッチを指し示すという不可解さ。ではこれは、政敵による陰謀なのでしょうか。

辣腕弁護士サンディ・スターンが検察側の主張や証拠を次々に粉砕していく、まるでマジックのような法廷弁論と、思わぬ真犯人の存在が脚光を浴びた作品ですが、本書の素晴らしさは、人間心理を見事に描写したことにあると思います。表に現れる華やかな法廷劇も、裏に潜む複雑な人間関係も、すべて微妙な心理の動きを魅せるための背景に思えてしまうほど。

サビッチが長年仕えた地方検事レイモンド・ホーガンの豹変ぶりや、敵役のニコ・デラ・ガーディア、トミー・モルト検屍官クマガイの悪意や、リトル判事がサビッチに示す好意の理由などは、まだわかりやすいほう。やはり秀逸なのは、野心を顕わにしてキャリアアップをはかったキャロラインの本意に気づきながらも彼女を忘れられず、一方で真犯人の心情を慮らざるをえない、サビッチという人物の造型でしょう。

また、サビッチ本人を証人として起用することをためらったスターン弁護士の真意も深いものがあります。ハリソン・フォードが主演した映画版では、裁判後に全てに気づくとの演出がなされていたため、その印象が強いのですが、サビッチは途中で真犯人の存在とその意図に気づいていたんですね。

20年ぶりの続編である無罪が発刊されたため、本書を読み返してみました。やはり再読に耐える面白さ。この際ですから、著者の作品を全て再読してみるつもりです。

2013/9再読