りぼんの読書ノート

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立証責任(スコット・トゥロー)

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推定無罪で超絶の法廷戦術を展開した刑事弁護士サンディ・スターンを主人公に据えた作品です。あの作品に登場する多くの人物が不安定な人間関係に苦しみながら生きているのに対し、この人だけは「揺るぎない」と思っていたのですが・・。

あの事件から3年後、出張先から帰宅したサンディを待っていたのは、ガレージで自殺していた妻クララの変わり果てた姿。「私を許してくださる?」との遺書、妻宛の病院からの請求書、妻が引き出していた巨額の小切手を発見したサンディは、深い悲しみともに長い年月の間連れ添った妻を理解してあげられなかったとの自責の念に包まれます。

折りしも妹シルヴィアの夫である、商品先物取引界の大立者ディクソンに届いた大陪審からの召喚状。弁護依頼を受けたサンディは、検察の捜査方針も依頼人からの情報も得られないまま、弁護方針を立てるために手探りでディクソンの行為を追及していきます。果たして、錯誤口座を用いた犯罪的手口が見つかるのですが、その口座の名義人は愛娘ケイトの夫であるジョンだったのです。ジョンは、ディクソンの単なる使い走りだったのでしょうか。そして息子ピーターの役割は?

一方で56歳にして独身生活に戻ったサンディは、はからずも回春の興奮を意識するようになり、罪の意識に悩まされながらも女性関係を持つようになります。彼を尊敬する女性検事ソニーにも、友情以上の感情を抱くのですが、法廷では彼女と対決しなくてはなりません。依頼人の金庫の所在を巡る守秘義務を巡ってサンディも投獄される寸前までいくのですが、それを救ったのは、検察の捜査方針の背後にある内部告発者の正体に不健全さを感じたソニーの直観でした。ディクソンははじめから全てを知っていて、最後には無実の罪を被ろうとするのですが・・。

本書は、法廷ミステリとしても超一級であるとともに、家族の絆という重いテーマを描いた優れた文学的作品ともなっています。そこにはアルゼンチンからのユダヤ系移民の息子としてアメリカで暮らし、富と名声を得た弁護士の人生が凝縮されているのです。『推定無罪』よりも高い評価を置く読者も多いでしょう。

2013/9再読