りぼんの読書ノート

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赤い三日月(黒木亮)

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「小説ソブリン債務」との副題を持つ本書は、1990年代に財政不安に陥って大規模な資本逃避と通貨下落が発生し、IMFの緊急融資を受けたトルコ経済を題材とした小説です。デフォルト寸前に陥ったギリシャに端を発して、全欧州・全世界が揺らいでいる現在にも照準を当てた作品といえるでしょう。

東京銀行ロンドン支店でトルコ担当のバンカー但馬を主人公としていますが、真の主役はトルコ経済。貿易赤字の縮小、インフレの沈静化、輸出指向の自由経済市場創出を目指す経済安定化プログラムのもと、外国資本の導入を目指して奮闘する官僚たちの努力をぶち壊したのは、政治家の不正とバラマキでした。現在まで多くの国で似たような問題が起き続けていますね。

小説ですので、トルコに肩入れしてシンジケート・ローン組成や債権発行を目論む但馬の前に立ち塞がる銀行内の官僚主義やライバル、さらには三菱銀行との合併を乗り越えていく過程が読ませ所。そして、トルコ経済を持ちこたえさせるための「10年に1度の意味のあるディール」へと物語は進んでいくのですが、客観的に見たらこの時期にトルコのリスクは取りきれないかも・・。

IMFアメリカの金融政策のツールにすぎない」というのが本書の背景をなす思想で、トルコ通貨危機も、その直後のアジア通貨危機も「仕組まれたもの」と言わんばかりですが、そう単純なものではありませんね。

昨今の状況を見ると、超大国や巨大金融資本を含めて、誰もがマネーの奔流に振り回されているだけのように思えてきます。「自由化はボラタリティを高める」と言っても、誰もが大きすぎるリスクを負った状態ではゲームは成り立ちません。せめて可能な部分だけでも管理して、自国からの堤防決壊だけは避けたいものですが・・。日本の財政赤字削減が進まない様子を見ていると、歯がゆくなります。

2012/2