りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

極北クレイマー(海堂尊)

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ジーン・ワルツイノセントゲリラの祝祭で触れられていた、「北の事件」の全貌がここで明らかになります。

極北市民病院に非常勤外科医として赴任した今中を待っていたのは、財政赤字で崩壊寸前の自治体から支援を期待できずに施設も医者も足りない赤字体質であり、院長と事務長の対立に象徴される病院の市の対立であり、バラバラの院内体制。

そんな中、一人で病院を支えていた感のある良心的産婦人科医の三枝が見舞われた、治療中の患者が手当ての甲斐なく死亡した事例が標的とされてしまいます。医師の逮捕という異常な事態に加えて、経営母体である市の財政破綻も重なって、病院は崩壊寸前となるのですが・・。

ベースとなっているのは、現実に起きたことです。福島県産婦人科医訴訟事件と、夕張市民病院の経営破綻をモデルにして、地方の医療問題と産婦人科問題、とりわけ「法の論理が医療に優先するのか」との難しいテーマを、独特のユーモア溢れる文体を用いて「読ませる小説」に仕上げたという点で評価できます。

厚生労働省からのハケン女医・姫宮の出番は少なかったけど、次元の異なるスーパーレディぶりは楽しく読めましたし、ラストで病院再生のプロとして乗り込んできたのが、ブラックペアン1988で新米外科医だった世羅というのも、今後の展開に興味を繋いでくれます。本書の続編があれば、ですけど。

2009/11