りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

エージェント6(トム・ロブ・スミス)

イメージ 1

チャイルド44グラーグ57に続く、3部作シリーズの完結編です。1950年。スターリン統治下のソ連で秘密警察のエリートだったレオは、モスクワを訪れた共産主義者の米国黒人歌手ジェシー・オースティンの警護を担当している最中に、後に妻となる女教師ライーサと運命の出会いを果たします。

1965年。前2作の背景となったスターリン体制の転覆とハンガリー動乱を経た後の冷戦時代。教育界で名を成したライーサは、養女のゾーヤとエレナを含む友好使節団を率いてニューヨークに向かいますが、KGBFBIの陰謀の狭間で悲劇が起こります。全てを失ったレオはアメリカ行きを切望しますが、出国許可が下りるはずもありません。

1980年。ソ連進攻下のカブールでアフガニスタン秘密警察の教官の地位に甘んじて抜け殻のような日々をすごしていたレオは、ある事件の捜査の過程で訓練生ナラと共にムジャヒディン・ゲリラに囚われてしまいます。処刑を前にしてレオは、アメリカへの亡命というカードを切るのですが・・。

最終的にレオは15年前の事件の真相を知ることになりますが、復讐は彼に何ももたらしません。残された家族を守るためにレオが選択した道は・・。

この結末に共感できない読者も多いのではないかと思いますが、「何が救いになるのか、たくさんのパターンを考えました。複雑な生涯に相応しい形を描けたと思います」との著者の言葉を信じましょう。翻訳者の田口氏は本書を「夫婦愛の物語」として読んだと述べていますが、同感です。個人の良心に従って生きることの大切さと難しさをレオに教えたのは、ライーサの愛だったのでしょうから。

チャイルド44のテーマが「信念」であり、グラーグ57のテーマが「贖罪」であったとするなら、本書のテーマは「愛」なのでしょう。

タイトルの「エージェント6」とは、ニューヨークに向かったエレナが日記に記していた幼い暗号です。レオが、FBIの資料倉庫に15年間保管されていた娘の日記を見つけた場面では鳥肌が立ちました。

2012/2