りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ブラックジュース(マーゴ・ラナガン)

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著者はオーストラリアの女性ファンタジー作家です。「奇想コレクション」は作家の代表的短編を編纂した本というのが基本形ですが本書ははじめから『ブラックジュース』という単行本として出版された作品。全体のバランスが良いように感じたのはそのせいでしょうか。

「沈んでいく姉さんを送る歌」両手を縛られてタール池の真ん中に立ち、ゆっくり沈んでいく姉を囲んで、家族たちが最後の宴会を繰り広げます。池の周囲でそれを見守るのは族長と部族の者たち。彼女は罪を犯して死刑を執行されているのです。

「わが旦那様」ジプシーのようなクズどもについて行ってしまった奥様を追って、馬を走らせる旦那様と下僕。貴族の妻にふさわしくない振る舞いを行なう妻を、旦那様は懲らしめるべきなのですが・・。

「赤鼻の日」修道院に潜み、道化師競技会の会場から出てくる道化師たちを次々と銃殺していく2人組。この世界で道化師はどういう存在なのでしょうか。

「愛しいピピット」巨体と牙をつかって檻をこわして脱走し、愛しいピピットを探しにゆく巨象たち。飼育係だったピピットは、人間のなかで唯一象たちと心を通わせられる存在だったのですが、突然連れ去られてしまったのです。

「大勢の家」吟遊詩人が支配するコミュニティが大切にしている「三人の家の歌」を12歳に達して「三人の歌」を聞いた少年は、外の世界に出て行って「大勢の家」を手に入れるのですが・・。「三人の家」とはアコーディオンのことですね。^^

「融通のきかない花嫁」身分違いの「花嫁学校」に入れて卒業の日を待ち望んでいた下町育ちのお転婆娘が、ほかの花嫁たちとはぐれてしまい、花嫁衣装をひきずって、教会めざして駆け回ります。「花嫁学校」の卒業って、集団結婚なのでしょうか?

「俗世の働き手」暴君であるじいちゃんの命令で死にかけているばあちゃんのために天使を呼び寄せてくる孫息子。ところがこの天使とは、異様な生物なのです。

「無窮の光」祖母の遺言で汚染地域のゴーストタウンで葬式をあげる物語。この作品だけ、グレヴィルという実在の地名が登場することに意味は?

「ヨウリンイン」恋する少年のあとをついていった市場で、凶暴な怪物ヨウリンインが襲来する予兆を見つけた少女ですが、誰にも信じてもらえません。

「春の儀式」春の儀式をおこなうために猛吹雪が荒れくるう山を登っていく男の物語。

彼女の作品に共通するのは、背景も意味も不明なまま叙述される異常な状況であり、異様な振る舞いです。意味がわからないというのは怖いことですが、私たちの日ごろの行動も、それだけを切り取ってみたら不思議で怖いことなのかも・・^^;

2012/1