りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

メモリー・ウォール(アンソニー・ドーア)

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世界の様々な場所を舞台にして「孤独と救済」を描いた『シェル・コレクター』の著者による新しい短編集のテーマは「記憶」です。

モリー・ウォール
人の記憶をカートリッジに記録することが可能となっている近未来の南アフリカ認知症が進む老女アルマの記憶に潜む秘密を盗み出すために、寿命1~2年とされる「記憶読み取り人」にされた少年が、老女の使用人の息子と束の間、心を交わします。記憶の断片。恐竜の化石。ウォータースライダーを滑る少年の興奮・・。

生殖せよ、発生せよ
不妊治療を受ける夫婦の心の揺らぎが描かれます。触れ合わずしてどうして人は他人を感じさせることができるのでしょうか。生殖医療が進歩しても生命の誕生は奇跡であり、自然からの祝福なのですが。ワイオミングの自然。訪れては去っていく渡り鳥たち・・。

武装地帯
1950年に朝鮮戦争に行った祖父は、何も語ることなくアルツハイマーを患いました。時を経て韓国の米軍に駐留する孫息子は、通信線に接触して非武装地帯に落ちて死んだツルを埋葬するために禁止地区に立ち入ります。孫息子の手紙は祖父の記憶のどこに触れるのでしょう。空を飛ぶ2羽の鶴・・。

一一三号村
ダムに沈む予定の中国の村で、技術者になってダム建設を進める息子と、種屋を営む母親と老教師とが触れ合います。石のひとつひとつが、階段の一段一段が記憶の鍵。夜の川を渡る、ビンに詰められた蛍。モクレンの発芽を見守る少年・・。

ネムナス川
移民2世の少女が両親を失い、リトアニアの祖父のもとに戻されます。少女の祖母は、自分の娘=少女の母の記憶を、ネムナス川のチョウザメに結び付けて呼び起こします。母の少女時代の写真。消滅しつつある南アメリカの部族と消えゆく言語のニュース・・。

来世
脳に傷を負って生まれたエスターは、医師の手でハンブルグのゲットーからアメリカに脱出させられましたが、友人たちの行き先は、ワルシャワミンスク、ビルケナウ・・。死者の子ども時代を知る人たちが皆死んだ時に、死者は来世へと解放されるとのこと。年老いて孫息子に看取られたエスターは、11人の少女が待つ世界へと向かいます。ハンブルグ空襲の記憶。あちこちに埋められている子ども時代・・。

2012/1