りぼんの読書ノート

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三悪人(田牧大和)

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手段を選ばずに老中への道を駆け上ろうとする水野忠邦。彼の弱みを握って将来の出世をはかろうとする鳥居耀蔵。2人の間に立って悪巧みを実現しようとする遠山金四郎。後に天保の改革の立役者となる若き日の「三悪人」が、騙し騙されの駆け引きを繰り広げる痛快時代劇ですが、何より3人のキャラが楽しい作品です。

遠山金四郎が「粋な放蕩者で義侠心に厚い色男」というのは、まぁ普通ですね。水野忠邦が、「氷の心を持ち、研ぎ澄まされた刃の英明さと、狐狸の狡猾さと、娘の傲慢さが雑多に絡み合い、辛うじて釣り合いをとっている」というのも、それほど意外ではありません。

出色なのは、悪役として描かれることが多い鳥居耀蔵です。「不遜な口調、不遜な振る舞い。薄笑いを浮かべた狛犬顔に浮かぶ意外な愛嬌。人を逆撫でしたりいざこざを起させたりすることにかけては天賦の才の持ち主。奇異な外見を揶揄されているにもかかわらず、女に対して純な幻を抱いて」いる意外なセンチメンタリストというのですから、これはいい。^^

目黒祐天寺の火事で、正体不明の若い女と盲目の僧が焼死。実はその火事は、従妹の姫君を使い棄てた水野が仕掛けたものだったのですが、巻き添えを食った盲目の僧が、水野のライバルが妾に生ませた落とし胤。その姉が、吉原で金四郎の馴染みとなっている遊女・夕顔というのですから、仕掛けの種が満載です。

夕顔を吉原から足抜けさせるだけでなく、偽の手形で故郷に帰す「出女」の罪を水野に犯させて弱みを握ろうとする金四郎と鳥居のたくらみと、それに乗ったと見せかけて夕顔を手中に収め、ライバルの藩でお家騒動を起こさせようとする水野の駆け引きの結果は・・。

とっても楽しめる「大江戸ビカレスク・ロマン」です。もちろん水野が一泡ふかされるのですが、単なる「やられっぱなし」ではなく、将来の出世の暁には金四郎と鳥居を表に出して、なだめ役と憎まれ役に使おうとしているとの深慮遠謀があるとの背景もいいのです。ということは、これは水野の出世と没落までを描くロング・シリーズにしないといけませんね。

2011/11